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患者さんとの思い出話
ほんとに勝手なこと書いてます。 
ここに出てくる患者さんの年齢、性別、経過などは
プライバシー保護のため多少変更しております。

 「医療とは患者さんと向き合うこと」
   私に限らず医師は皆、研修医の頃、長々と今まで勉強してきた知識から、
「どんなに苦しんでいる患者さんでも、
 今までの知識を駆使して治してみせる」

と意気込んでいるものです。
そして臨床研修が始まり、最初に突き当たる壁が
「医療の限界」です。

 
 
末期癌や不治の病という診断がつけばある程度納得できるのですが、
そうでない場合は何とかして病気を治したいと必死に治療法を考え実践します


そこで自分を見失い、「患者」では無く、「病気」とばかり向き合ってしまう
んですよね。今回は私が内科研修医の時に
患者さんと向き合うとはどういうことか?、
教えてくれた患者さんの話です。

 
 その人は70歳代の女性、診断は虚血による慢性心不全と腎不全で、感冒や脱水などを起こす度に症状悪化し、今まで何度も入退院を繰り返しておりました。今回も食欲不振から心不全を起こし呼吸困難で入院となったんです。

 入院当初から依存傾向が強く、我儘なところがありましたが、家族には非常に愛されており、いつも面会の人たちが絶えませんでした。私に対しても非常に好意を持ってくれていて、診察に行く度に、手を握られたのを憶えています。
 
 心不全というのは心臓の動きが悪くなって肺に水が溜まったり、浮腫んだりする病気です。その治療は、末梢の血管を広げる薬や、心臓の動きを良くする薬、利尿剤という尿を増やす薬をうまく使いながら、肺に溜まった水を減らし、呼吸状態を改善させていきます。
 
 その後原因を検索し、再発防止に務めるのですが、その患者さんの場合は心臓の筋肉を栄養している動脈が3本とも細くなっており、すぐに動きが悪くなってしまうんですよね。薬物の反応は不良でしたが、多種多様の薬剤を点滴で注入して、何とかて2、3日で徐々に肺の水も減少していったんです。
 
 しかし、その一週間後、利尿剤により元々悪い腎臓が急激に悪くなってしまったんです。点滴を増やしたり、利尿剤を減らしたりと一時期は泊り込んで色々試行錯誤しましたが、なかなか改善せず、それから2週間くらいして徐々に尿量も減少していき、腎機能も悪化してしまったんです。

腎臓という臓器は一度壊れてしまうと治ることはありません。90%以上壊れると体液のバランスが取れず、体外に排せつ物を出せなくなってしまうのです。こうなってしまうと、もう
透析しかありません。透析をすれば、尿量を調節し、肺に溜まった水を減らし、呼吸状態の改善も見込めるのです。

 
 入院した時から患者さんは非常に不安がっておりました。僕の手を必死に握り「先生、もう私、駄目だね?」と毎日のように聞かれ、その度に僕は笑顔で「大丈夫!何とかします。心配ないですよ」と答えていました。透析が必要と本人家族に説明、本人は嫌がっておりましたが、何とか説得し、同意をもらったんです。
 

 その翌日から透析を開始、心不全もすぐに改善し、これで一安心だと思っておりました。しかし2回目の透析が終わってから家族より、「もう透析は止めて欲しい」との申し出があったんです。
 
 


 透析というのは一日おきに3〜5時間かかり、その間患者さんは横になって、ずっと安静にしていなければならず、体にも大きな負担がかかるんですよ。それに本人が耐えられなくなり、もう止めて欲しいというんです。

 当然止めれば心不全は悪化し、すぐに肺に水が溜まりますので、命にかかわると説明しましたが、家族としては


今まで何度も入院を繰り返しており、
厳しい状態を切り抜けてきたが、
あんなに辛そうに透析を受けているのは、
可哀想で見ていられない

と言うんですよ。本人にも何度も説明しましたが、
どうしても、透析はしたくないとのことでした。



 
 翌日から透析は中止し、徐々に肺に水が溜まり、呼吸状態は悪化、何も出来ませんが時間があればその患者さんのところに行き、手を握って、話をしました。いよいよという時に
「先生・・・本当にもう駄目だね?」
と泣きながら聞かれ、以前のように大丈夫とは言えず、
私も思わず涙ぐんでしまいました。

でも、その時患者さんは
「先生・・・ありがとね・・」
と言ってくれたんです
 
 

 
透析を止めて一週間後、その患者さんは安らかに息を引き取りました。

今思えば、もっとその患者さんの話を、
聞いておくべきだったと思います。
最先端の治療薬とか透析とか、
彼女の尿量とか呼吸状態のデータなど
検査結果と心臓と腎臓のことばかり
気になっていました。

患者さんが透析でどんなに辛い思いをするのかとか、
今までの入院でどんなに辛い思いをしてきたか、
なんて全く考えてなかったんですよね。
 
 

その人のおかげで、
医療とは病気を治すことではなく、
患者さんとしっかり向き合うことだと気がつきました。


 
 その患者さんは、私が一生懸命に自分を救おうとしてくれているのを、知っていたのだと思います。その結果がうまくいかなくても決して私を恨むことはないでしょう。
そう考えると
最期の担当医は私で良かったと今では思っています。


 
 人間には必ず寿命があります。最近の医学の進歩に伴い日本人の平均寿命は確実に延びてきていますが、高齢者に最先端の医療をすることで、入院生活から、ADLが下がり寝たきりになったり、苦痛が増えるのであれば、決して最先端の治療とは言えません。
 
 病気しか診ていない医者は「自分が患者の命を救う」という勘違いの自己満足と、自分のプライドを満たすために患者さんを利用しているのだと思います。

良い医師に必要なのは知識や技術では無く、
診療態度や患者さんと向き合おうとする気持ち、
例え結果がうまく行かなくても、
必死に患者さんと向き合おうとする姿勢なんです。
それこそが、良き医師のあるべき姿と思います。


医療とは病気を診るのではなく、患者さんという一人の人間を診ることなんですね。
 
 そのことに自分が気がつけたこと・・、
 彼女には本当に感謝しております



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